中医養生講座2
『中医学の養生法』 第二回「主な中薬(漢方薬)の四性」
前回、風邪の例でも述べましたが、証の中でまず大事なのは、寒証か熱証かを分けることです。この考え方は病気の時ばかりでなく、普通の時の体質の分類にも利用できます。実際には季節との関係や、諸要素とあいまって複雑にもなるのですが、寒証傾向の人は、手足が冷えやすく寒がりで、温かい飲物を好み、熱証傾向の人は、手足が火照り暑がりで、のどが渇きやすく、冷たい飲物を好むという特徴が見られます。
『黄帝内経』という中医学の古典の中に、「寒者熱之」(寒の証の場合は、温熱の方法を用いる)、「熱者寒之」(熱の証の場合は、寒涼の方法を用いる)という文が出ています。これは、治療の大原則なのですが、養生の原則としても有用です。中医学では、陰陽(次回詳解予定)のバランスが崩れることが病気につながるとしていますが、このアンバランスの状態が外に現れたのが寒熱の症状と言えます。寒証傾向の人は、逆の温熱の性質の薬や食物を取ってバランスを元に戻すようにしなくてはなりませんし、熱証傾向の人は、逆の寒涼の性質の薬や食物を取るようにすべきです。
中医学では、中薬(漢方薬)にも食物にも、この寒熱に関する性質である、四性(または四気)が説明されています。四性とは、「寒涼温熱」の四つを指し、寒と涼、熱と温はそれぞれ、冷やす力、温める力の程度を表します。たとえば唐辛子は「熱」ですが、生姜は「温」に分類されています。実際にはこの四つに「平」(どちらでもない)という要素が加わります。また微温、微寒などの表記も使われます(下記「四性表」参照)。
中薬の中で、「寒」「涼」のものは熱証タイプの病気に使われます。桑葉、菊花、薄荷は風熱感冒によく用いられ、桑葉、菊花はまた、肝陽上亢という証、症状的には、血圧が上がり、のぼせて、めまい、ふらつき、目の充血、頭痛などがある場合にも使われます。中国の広州など暑い地方では、夏の暑気払いのために菊花茶がよく飲まれています。さて、日本で流行したドクダミ茶ですが、ドクダミ(魚腥草)は、性は「微寒」で清熱解毒という、熱性のできものや化膿症、感染症を治療する働きや、利水通淋という、熱性の泌尿器感染で排尿困難のある時、尿を出させる作用をもちます。いずれにせよ、冷やす作用があるわけですから、体が冷えやすいなど寒証タイプの人は常用すべきではありません。
「涼」の欄に、葛根が入っていますね。前回も読んでくださった方は、「葛根湯は風寒感冒に使う薬だから、温めるタイプの薬のはずだが?」などと思われたかもしれません。実は「葛根湯」は葛根だけでなく数種の中薬の入った処方の名前です。葛根には、首筋や背中のこわばりを取る作用があるので、寒証タイプの風邪でも、首筋がこわばる時には、葛根に麻黄や桂枝といった温熱タイプの中薬が加わった「葛根湯」を使います。他の温熱タイプの中薬によって、葛根の「涼」の力は打ち消され、葛根湯全体では、温めるタイプの処方になるのです。
このような、ある中薬の欲しくない作用を別の中薬で打ち消すという手法は、中医学ではよく用いられ、これは食物にも応用できます。冷や奴を食べる時に、豆腐の涼性を、温性の葱や生姜を加えることで弱めたり、寒性の苦瓜を温熱性の唐辛子や生姜と一緒に炒めたりするのは、中医学的にも意味のあることです。
十数年前から中国のホテルの売店やデパートで、中薬を使った、いわゆる「精力剤」を多く見かけるようになりました。その名もズバリ「エレクト」という製品もあります。このような精力剤は、中医学的には、補腎薬と分類されます。腎は、人体のエネルギーの元である「腎精」を蓄える働きをもつ臓器であるとともに、発育、生殖を司り、前陰(外生殖器)、後陰(肛門)の二陰の働きもコントロールしています。それで、「どうも、セックスが弱くなった」という時には、腎を補う薬を使うのです。
ところで、性能力に問題がある場合にも、大きく二つのタイプに分類することができます。腎陽虚タイプと腎陰虚タイプの二種類です。前者は、温め、活動の元となる「腎陽」が足りません。車で言えば、ガソリン不足の場合でしょうか。後者は、滋養し、冷やす元となる「腎陰」が足りません。車で言えば、ラジエーターの水が不足している状態です。どちらの場合も出力がなかなか上がりません(イラスト参照)。当然、補腎薬にも、「補腎陽薬」と「補腎陰薬」の二つのタイプがあります。「補腎陽薬」はガソリンを補い、火力を強める働き、「補腎陰薬」は、水を補い、冷やす力を強める働きがあると考えることができます。
さて、前出の「精力剤」は、そのほとんどが「補腎陽薬」です。鹿茸、海馬、海狗腎などの補腎陽の働きをもつ中薬が使ってあります。体に冷えの症状があり性欲自体も弱く、インポテンス気味という人には最適なのですが、逆に、暑がりで、手足が火照り、寝汗をかき、性欲は強いけれども早漏気味というオーバーヒート寸前の「腎陰虚」タイプには向きません。このタイプの人が「補腎陽薬」を服用すると、一時的にはパワーがついたようにもなるのですが長期的に服用すれば体に悪影響を及ぼします。
また、万能薬として昔から重宝された朝鮮人参は、確かに気(一種のエネルギーと考えてください)を補う薬(補気薬)の代表薬で用途も多いのですが、性は「微温」で、温熱タイプの中薬ですから熱証タイプの人は使えません。血圧を上げる作用もありますから、暑がりで、高血圧気味という人は使わない方がよいでしょう。こういう熱証タイプの人で、気を補いたい人は、同じ「補気薬」でも性が「寒」の西洋参を使った方がよいのです。
大分前になりますが、中国の陸上競技の馬軍団が使っていることで有名になった冬虫夏草ですが、これは「補陽薬」に分類されます。肺と腎を補いますから長引く咳やインポテンス、足腰のだるさなどに使います。やはり温熱タイプの薬ですが、書物によって性が「平」だったり「温」だったり記載に違いが見られますから、わりあい穏やかな性質のようです。ただし「平」と分類されている場合でも、「陰虚」の人、つまり冷やす力の弱いタイプの人は単独で使わないようにという注意書きがあります。いわゆる「ガソリン」タイプの薬ですから、速く走れるのかも知れませんね!?
もう一つ、日本で流行している杜仲ですが、中国では、薬材としては樹皮の部分が使われ、性は「温」で、やはり「補陽薬」の仲間です。肝腎要(かんじんかなめ)の肝と腎を補い、足腰のだるさやインポテンスなどに使います。やはり「陰虚」タイプでのぼせやすいなど「熱」の症状が強い人は、使用に注意が必要です。一方、日本での杜仲茶には、杜仲の葉の部分が使われているようですが、残念ながらその性については薬草学の古典である『本草綱目』にも記載がありません。
以上、「証」の中の「寒熱」について述べてきましたが、病気にも体質にもタイプがあり、また治療に使われる中薬にもタイプがあるのです。誰かに合った治療法が自分にも合うとは限りません。自分の体質と病状に合った治療法、そして養生法を行うことが大切です。
中薬・四性表
寒 |
涼 |
温 |
熱 |
|
中 薬 |
ソウヨウ 桑葉 キクカ 菊花(*微寒) ギョセイソウ 魚腥草(ドクダミ・ 微寒) セイヨウジン 西洋参 |
ハッカ 薄荷 カッコン 葛根 |
マオウ 麻黄 ケイシ 桂枝 チョウセンニンジン 朝鮮人参(*微温) ロクジョウ 鹿茸(鹿の幼角) カイバ 海馬(タツノオトシ ゴ) トウチュウカソウ 冬虫夏草 |
カイクジン 海狗腎(オットセイ のペニス) |